シュガー・ベイブ(Sugar Babe)唯一のアルバム『SONGS』。
1975年4月25日にナイアガラ・レコード(エレックレコード配給)から発表された原盤を、1981年にCBS・ソニーが再発したプレスです(27AH 1240)。
プロデュースは大滝詠一。エンジニアのクレジット「笛吹銅次」は大滝詠一自身のレコーディング・エンジニア名義です——「多羅尾伴内(アレンジャー名義)」「笛吹銅次(エンジニア名義)」等の変名を使い分けた大滝詠一の、エンジニアとしての別の顔がここに記録されています。名前の由来は吉野金次・伊藤銀次と続く「○次」シリーズで、笛吹童子をもじったものとされています。つまり本盤は、プロデュースもエンジニアリングも大滝詠一が一人で担った作品です。
本盤には1975年の原盤には収録されなかった「Sugar」(B6 / 5:52)が「おまけ(付録)」として追加収録されています。
メンバーは山下達郎(ヴォーカル・ギター・キーボード・ヴァイブ・グロッケン他)、大貫妙子(ヴォーカル・キーボード・グロッケン他)、村松邦男(ヴォーカル・ギター他)、椀庭嵐起(ベース他)、野口明彦(ドラム・パーカッション)の5人編成。全曲のアレンジは山下達郎が担当。
録音はCBS・ソニー1st・2ndスタジオ、ELECスタジオ2nd、MOURNスタジオ1st、Studio Romaにて行われました。
このアルバムはソフト・ロックやAORの日本版として語られることが多い一枚ですが、聴き込むほどに伝わってくるのは、そうした言葉に収まりきらない”熱量”です。メンバー全員が20代前半、大滝詠一も20代後半——プロデューサーも演奏者も、皆が若い。その若さからにじみ出る熱が、穏やかなサウンドの奥底で静かにみなぎっています。洗練されているように聴こえるけれど、本質は紛れもない都市の”ロックンロール”。
1975年の東京という場所と時代の空気が、このアルバムには詰まっています。
シュガー・ベイブは1973年に東京で結成。アルバム発売当初は売り上げが振るわず1975年中に廃盤となりましたが、山下達郎・大貫妙子それぞれのキャリアが確立するにつれて再評価が進み、本盤(1981年)、1994年CD化を経て現在まで繰り返しリイシューされています。2025年4月25日には発売50周年記念の「SONGS 50th Anniversary Edition」もリリースされました。
■ 全曲案内
A1. SHOW(3:28)/ 作詞・作曲:山下達郎
アルバムの冒頭を飾る山下達郎作。アレンジの洗練が冒頭から際立っており、1975年の日本のポップ・ミュージックにあってこれだけのサウンド設計を持ったアルバムはほとんどありませんでした。「SHOW」というタイトル通り、幕が開く気合いが演奏に出ています。
A2. DOWN TOWN(4:21)/ 作詞・作曲:伊藤銀次・山下達郎
アルバムで最も広く知られる曲。1993年のPizzicato Fiveのカヴァーで改めて脚光を浴びましたが、このシュガー・ベイブの原典を聴けば、表情の豊かさで原典が上回っていることがわかります。山下達郎と大貫妙子のユニゾン・ハーモニーが最高潮に達するコーラス、野口明彦のタイトなドラム、椀庭嵐起のベースライン——70年代前半のアメリカン・ソフト・ロックへの造詣が、完全に日本語のポップスとして成立しています。
A3. 蜃気楼の街(2:58)/ 作詞・作曲:大貫妙子
大貫妙子の作曲は山下達郎とは異なる角度から光が当たるような印象があります。メロディの輪郭が少し揺れているような、それでいて引力のある展開。「蜃気楼」という言葉が持つ虚実の揺らぎが音に出ています。
A4. 風の世界(3:28)/ 作詞・作曲:大貫妙子
もう一曲の大貫妙子作。「蜃気楼の街」より少し明るく、風通しがよい。大貫妙子の声——少し引いた透明感のある声質——がこの曲では特によく映えます。後のソロ・キャリアへの萌芽が随所に感じられます。
A5. ためいきばかり(4:19)/ 作詞・作曲:村松邦男
村松邦男が書いたアルバム唯一の曲。タイトルの「ためいき」通り、少しだけ物憂い。ギタリスト出身の村松邦男らしくコード感が曲の骨格となっており、A面の締めとして全体の温度をひとつ落とします。それがアルバム全体のバランスをちょうどよく整えています。
B1. いつも通り(3:34)/ 作詞・作曲:大貫妙子
B面を大貫妙子が開きます。「いつも通り」というタイトルに反して、ハーモニーの組み方は細部まで計算されています。大貫妙子の詞の言葉選びはいつもわずかにずれていて、それが「日常」という言葉に奥行きを与えています。
B2. すてきなメロディー(2:36)/ 作詞・作曲:伊藤銀次・大貫妙子・山下達郎
三者の共作。結果として出てきたメロディは確かに「すてき」で、短い曲の中でコーラス・アレンジの密度が高い。あっという間に終わってしまう、短くて惜しい一曲です。
B3. 今日はなんだか(4:29)/ 作詞・作曲:伊藤銀次・山下達郎
アルバムでもっともリズミックな感触を持つ曲。「今日はなんだか」という言葉が持つ焦燥感と期待感が、演奏のグルーヴとシンクロしています。山下達郎の声がもっとも前に出る瞬間のひとつです。
B4. 雨は手のひらにいっぱい(3:34)/ 作詞・作曲:山下達郎
雨をテーマにした山下達郎作の一曲。「手のひらにいっぱい」という表現の具体性が、抽象的な感情を地面に引き戻してくれます。山下達郎のメロディ・センスが最も端的に感じられるトラックのひとつで、後のソロ作品との橋渡しにもなっています。
B5. 過ぎ去りし日々 '60s Dream(3:31)/ 作詞:伊藤銀次、作曲:山下達郎
サブタイトル「'60s Dream」が全てを語っています。ブライアン・ウィルソンやバート・バカラックへの愛情が最も直截に現れたトラックで、60年代アメリカン・ポップの構造とコーラス美学を吸収した上で、1975年の東京で歌い直しています。この時代にこれができていたことを、後年になってから驚く人が多い曲です。
B6. Sugar(5:52)/ 作詞・作曲:山下達郎(付録)
1975年の原盤には収録されなかったトラックで、本盤(1981年再発)に「おまけ(付録)」として追加されました。アルバム中もっとも長い5分52秒で、アレンジのスケールも最大。サビの広がりと、繰り返しの中で積み重なっていくコーラスの厚みは、後のソロ・アルバムへとつながる山下達郎の音楽観を先取りしています。付録と表記されていますが、聴き応えは本編に引けを取りません。
盤面に軽微な小傷がございますが、鑑賞上の支障はほとんどありません。ジャケットに経年感がございます。帯なし。
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大貫妙子の「風の世界」(A4)と、山下達郎の「雨は手のひらにいっぱい」(B4)。
Tracklist:
Side 1 — A1. SHOW / A2. DOWN TOWN / A3. 蜃気楼の街 / A4. 風の世界 / A5. ためいきばかり
Side 2 — B1. いつも通り / B2. すてきなメロディー / B3. 今日はなんだか / B4. 雨は手のひらにいっぱい / B5. 過ぎ去りし日々 / B6. Sugar(付録)